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NOBUAKI KANEKO
SOLO PROJECT 2024

Keraunos ロゴ
ポスター

DTMと生のドラミングの融合。
静謐と凶騒。群衆と個。
デジタルとフィジカル。起源と未来。

――2009年『オルカ』、2014年『Historia』、2016年『Fauve』、そして2024年『Keraunos』へ――

 

本作『Keraunos』は、金子ノブアキが8年ぶりに発表するフルアルバムである。“Keraunos(ケラウノス)”とは、古代ギリシア語で“雷”を指す言葉で、ギリシア神話の天空神ゼウスが振るう武器の名としても知られている。

 

構想はおよそ1年半。自身のプライベートスタジオ“Silencio Studio”にて制作された11曲の作曲・ビート&トラックメイク・パフォーマンス・レコーディングを金子は全て単独で手掛けている。

 

「next life」をプロローグに、タイトルトラックの「Keraunos」は鮮烈な“雷”のもとで性急に生きる群衆を描き出すかのようだ。「Santa Destroy」は金子がサウンドのメインコンポーザーを務めてきたNintendo Switchのゲーム『NO MORE HEROES』シリーズに登場する架空の街を題したチューンだ。

 

フィジカルとテクノロジーの起源を問うようかのような「MASSSK」。抒情が降り注ぐかのような「hail」。(一聴すれば記号的な曲名の意味が一撃で分かる)シニカルな攻撃性とユーモアを備えた「FZKJNY」。「Perfect World」は、荒廃の先に見出す理想郷を思わせるような美しさと哀しみを湛えている。

 

さらにアルバムは胸に馳せる勝利と繁栄へ馳せる思いとその犠牲を思わせる「Glory」、オルタナティヴロックのマナーがドラマのクライマックスを想起させる「silver knives」と続く。呼吸音のような「Jaguar Motel」はつかの間の夢幻か昏睡か。

 

風雲急を告げる「Living Dead Riot」で『Keraunos』の物語は終わりなき完結とも取れるようなエンディングを迎え、再び「next life」へとループしていく。

 

ここに記した楽曲の印象はあくまで筆者の個人的な見立てである。しかし、本作に、現代社会を見つめる金子の“観察者”としての視点が貫かれていることはまず間違いない。

 

SNS時代やAIの到来を背景とする現代の群集心理の正体とは? その起源と未来とは? あらゆる“過渡期”とも捉えられる今日を、金子が独自の視点で批評し、DTM(デスクトップミュージック)と生のドラミングで雄弁且つラジカルにドキュメントした一枚。それが『Keraunos』の正体だと筆者は推察する。

 

その一方、ここまで論じて身も蓋もないが、『Keraunos』は“理屈”を抜きにしてもEDM(エレクトロニック・ダンス・ミュージック)として、とにかくアガる。

 

思えば金子がDTMに本格的に着手したのは2016年の『Fauve』から。2018年にはSKY-HIのフィーチャリングで話題を呼んだ「illusions feat.SKY-HI」を配信リリース。加えて、映画『blank13』(2018年)、『MANRIKI』(2019年)の音楽や、前述『No More Heroes』シリーズのサウンドも手掛けてきた。

 

そしてコロナ禍、STAY HOME期間が研鑽期間となり、2020年にはコロナ禍の“孤独”をテーマに33分に及ぶアンビエント楽曲「Zange Utopia」を配信リリース。以降、そのスキルアップはさらに加速し、この『Keraunos』へと結実したのだ。

DTMと生のドラミングの融合が金子ノブアキ作品の根幹なのだが、そのグルーヴの質感やクセはたしかに彼のそれなのに、もはや生なのかデジタルなのか判別不可能な箇所も多々ある。スタッフから聞いた話によると、自身のアーカイブからドラミング音源のみを引っこ抜き、それを最新のドラミングに貼りつけるというマニアックなことまでやっているらしい。

 

そもそも金子ノブアキの音楽というのは「バンドのドラマーがドラムを叩くためのソロをやりました」といった単純なものではなかったわけだが、ここにきてトラックメイカーとして大きく進化を遂げた点も実に興味深い。

 

また、『Keraunos』を語る上では、群集心理から生まれる新たな生命と舞台を表現した鬼才・清水康彦監督によるMV(ミュージックビデオ)集が重要だ。なかでも生成AIを有機的に駆使した「Keraunos」は、限りなく人知に近付いた人工知能の表現として息を呑む。

 

金子は音楽の制作段階から清水と綿密にコミュニケーションを交わし共鳴していたという。アルバムとしてすでに“完成形”の『Keraunos』の表現は、清水の映像と共に体感することで“完全体”となると言ってもいいだろう。

 

アルバムリリース直後の9月19日には東京・渋谷WOMBで「Nobuaki Kaneko Showcase 2024 “Keraunos”」が開催される。ステージは金子一人という独演スタイルで、清水の映像との融合によるイマーシブなライブ表現に挑戦するというので注目だ。 

 

最後に、アルバムタイトルについてもう一言。 “雷”を指す“Keraunos”という言葉からは、やはりRIZE(=雷図)との関連性を感じずにはいられない。今年、RIZEは7年ぶりの活動再開を電撃的に発表。そのまま全国ZEPPツアー「RIZE TOUR 2024 "SOLU"」というビッグサプライズを完遂したばかりである。

 

もし、RIZEが今も休眠状態のままなら、『Keraunos』は、ホームに対するカウンターとして機能しかねないタイトルだった。しかし前述の通りRIZEは見事復活を遂げ、しかもそのライブパフォーマンスは、ライブバンドとして「新たな蜜月を迎えた」と言っても過言ではないほどの熱量だった。さらにRIZEは、今回の活動再開に際して新マーチブランド“ZEUS(ゼウス)”をスタートさせている。

 

こうしたリンクから、つまり『Keraunos』とは、金子ノブアキの音楽表現がライフワークとしての新章に突入したというステートメント(宣言)であると同時に、RIZEとの絆が成立しているからこそ実現したネーミングなのだと捉えることができる。そして、本作で金子があくまでも“独演”にこだわったスタンスには、ソロアーティストとしてのアイデンティティと同時に、RIZE、RED ORCAのメンバーへの絶対的なリスペクトを読み取ることができる。

 

静謐と凶騒。群衆と個。デジタルとフィジカル。起源と未来。時代の“目撃者”たる金子ノブアキの“雷”が混沌のいまを打つ。

 

文:内田正樹

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